御伽話 1

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『ほら、泣かないで。神様が悲しむよ? 愛しい者が泣いているのは凄く辛い事だから。ほら泣かないで笑いましょう? そうすれば神様も笑ってくれるから……』
 子供をなだめる為の御伽噺。今聞くと神とはなんなのかも、どうして神が愛しんでくれるのかも解らない、そんな下らない御伽噺。
 けれどもそんな事を話す者もいなくなってしまった。誰も……否、一人だけ取り残されたモノがあった……。そう、こうやって自嘲気味に笑っている自分。
 自分だけが残った。

 いつもの様に暮らしていた。誰もが明日を疑うなんて事は……多分なかったのだろう。どこにでもある特色の無い村。自慢出来る事と言ったら長閑な田園風景と、特産物のぎっしりと実の詰まった、西瓜ぐらいな物だ。
 自分は何時もの様に、色気の無いプラスッチクデスクに座っていた。そして、与えられた仕事を片付けながら、仲の良い同僚と馬鹿な話を繰り広げていた。思っていた事と言えば、今日の夕飯の事とか、今度生まれて来る犬の事とか、そんな下らない事。

 丁度仕事を終え、家に帰る途中の道、黄昏刻と言うのだろう。真っ赤な、真っ赤な夕日に照らし出された道は、恐ろしく美しかったのを憶えている。
 誰かが叫ぶ声がして、それは訪れた。今思えば可笑しな話だが、誰かが叫んだからそれが来たのでは無い。それが来たから、誰かが叫んだ。順序としてはこれが正しい。

 それは唐突で、無慈悲だった。

 気が付けば辺り一面砂、砂、砂。物が、者が、モノが赤い砂に変わる。人がサラサラと崩れ、建物が崩れる。家族だったモノや、友人だったモノが砂に変わる。家だったモノが、車だったモノが砂に変る。人々は悲鳴をあげ逃げ惑い、砂に変わっていった。

 村が砂に変わり、飲み込まれ、無くなった。自分のいた高台から見下ろす村は赤かった。教会の屋根が砂から突き出し、その屋根に吊るされている赤銅色の鐘が、リゴーン、リゴーンと哀しげに鳴っていた。
 その音もやがて赤く染まる。

 呆然とする者、泣き叫ぶ者、怒鳴り合う者。悲鳴と怒号に日常が掻き消される。
 全てが砂に変わり、数え切れない何かを失った。不合理だった。理由など挟み込む隙間もなく赤く染まっていった。

 そして、自分だけが残された。
 気が付けば、レンガで舗装されていた筈の足元も、赤い砂に変わっていた。
 何処までも続く、あかい、紅い、赤い砂。永遠という言葉を信じて見たくなる光景だった。

 常識的に考えれば、岩やレンガならともかく、人や木が砂に変わる訳はない。岩やレンガにしろ一瞬にして、何のエネルギーも加えられぬまま砂に変わることなどありはしない。
 でも、変わってしまった。事後承諾。納得するしかない。
 世界は砂でできていたのだろうか? と馬鹿な事を考えながら寝転がって今に至る。

 馬鹿馬鹿し過ぎて現実感が湧かない。三流のファンタジー小説でもあるまいし、「世界に一人だけ取り残される」なんて事があっていい訳がない。科学的にお偉い学者さんか誰かが説明をして欲しい。自分が変わらなかった理由。他のモノが変わってしまった理由。

 その誰かが居ないので、とりあえず自分で考えてみる。他力本願はあまりよくない。
(夢なのだろうか?)ほっぺたが痛い。
(ドラッグを飲んでトリップ中)ドラッグなんて手を出した覚えはない。
(これは、新手のドッキリである)手が込みすぎている。
 十数通りの理由を考えて、一番納得できそうな理由が「これは魔王の呪いで、自分は世界を救う唯一の希望」という結論に達したところで考えるのを諦めた。


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